医学生でも5,6年生に差し掛かると就活が待ち受けている。
卒後、研修医としてどこの病院で初期研修をするか決めるのである。
我々はその就活のことをシステムの名前からマッチングと呼んでいる。
初期研修はたかが2年間だし、いわゆる一般的な大学生の就活とは重さといいシステムといい相違点が多いが、それでもいわゆる人気病院に就職しようと思うと中々熾烈な競争に勝たなければならない。
今回は、初期研修病院の選び方に関して考慮すべき点を書く
病院の選び方
研修病院は全国数多存在し、各々が異なる特色を持っている。早いうちからきちんとリサーチし、自分の求める病院像とマッチする病院を見つけることが何よりも大事だ。
病院を選ぶ要素はいくつか存在する。
○大学病院 or 市中病院
昨今は市中病院での研修がトレンドであるが、一長一短であると思う。
市中病院と大学病院の最たる違いは給料と研修医の裁量だ。
大学病院の給料はもれなく安い。下手したら同立地の市中病院の半分以下の病院もある。
また医師の数が多く、教育的である反面、研修医が主体的に診療に携わるということは難しく、雑用に近い業務に追われがちである。
さらに入院している患者も専門的な症例が多く、いわゆるcommon diseaseを経験しづらいことを懸念に思う人もいる。
一方で大学病院のメリットとしてまず3年目からの入局のしやすさが挙げられる。特に出身大学以外の医局に入局したいと考えるなら、その大学病院で研修をすることで顔を売るチャンスになる。
また、国立の大学病院の多くはたすきがけシステムを採用していて、大学病院と関連の市中病院の研修を1年ずつ経験でき、common diseaseから専門的な症例まで幅広く経験することが可能だ。
加えて大学病院には一通りの診療科が揃っており、研修出来ない科は基本的になく、市中病院の研修で疎かになりがちなマイナー科もちゃんと回ることができる。(もちろん特定のマイナー科が強い市中病院というのも存在する)。
○研修プログラム
初期研修プログラムは必修以外の部分は各病院に委ねられているため、実は病院によってかなり異なる。流石に全てを上げだすとキリがないので、ここではよくある3種類の病院を例に挙げる。
1ヶ月スパンくらいであらゆる科を回る。色々な科が経験できる反面、慣れた頃に次の診療科に移ってしまうというもどかしさもあるようだ。希望する診療科が決まってなく、満遍なく見たい人におすすめ
②選択期間長い系
いずれの病院にも選択期間は設けられているが、中には必修部分を除いて、全て選択期間という病院も存在する。自分で診療科を好きに選べるため、マイナー科を志望する人や楽な診療科ばかり選んでハイポな研修を送りたいという人に向いてる。
③メジャー科長い系
メジャーと呼ばれる科(内科・外科)の期間が長い。2,3ヶ月かけて1つの診療科を回れるため、かなりその診療科の知見を深めることができる。一方でその皺寄せを受けて選択期間が短い場合が多く、マイナー科志望やハイポ志向には向いていないかもしれない。当然内科系志望には打って付けの病院だ。
○立地&給料
立地が研修医生活の大部分を占めると言っても過言ではないだろう。
当然都会のほうが生活はしやすく、有名病院も多い。が、都会の研修病院は軒並み給料が低水準である。都内の市中病院の手取りは大体30-35万くらいが多く、40万を超えると高給の部類に入る(厳密にはボーナスの有無や当直の回数にも左右される)。
一方で田舎の病院は周りには何もないが、1年目で年収1000万を超えるような病院も存在する。またあくまで噂だが、田舎の病院はいわゆるピンク病院(看護師などとの交流が盛んな病院)が多いともされる(やることがないからね笑)。
立地を取るか、給料を取るか、悩ましい問題ではあるが、個人的には立地で選ぶべきだと思う。
正直研修医の給料の差なんて2年間で高々数百万程度のことであり、これからの長い医師生活の中でいくらでもリカバリー可能であるからである。
それよりも20代半ばという青春のラストチャンスを都会で味わうという経験は何にも代え難い。
○忙しさ(ハイパー or ハイポ)
バリバリ働きたい(ハイパー)のかゆるく働きたいのか(ハイポ)は大きな分岐点だ。
クチコミサイトを見るとハイパーかハイポか記載してあるのをよく見かけるが、正直ナンセンスだと思う。
なぜならその病院がハイパーかハイポなのかは研修医(見学した学生)の主観的な評価に過ぎないからである。
ある人にはハイパーに感じても、ある人にはハイポに感じるなどざらだ。
私は病院見学に行き、他病院と比べ明らかにハイパーだと感じたが、そこの研修医(ゴリゴリの体育会系)はあまりハイパーに感じていなかった。
つまりはその程度の信憑性の指標なのだ。
さらに同じ病院であっても診療科によって忙しさは大きく変わる。
その病院に関して循内を見学した学生と内分泌を見学した学生のクチコミが混在している時点で、信憑性は大きく下がる。
大事なのは気になった病院はネットのクチコミを鵜呑みにするのでなく、必ず見学に言って研修医から直接話を聞き、自分の価値観で判断することなのだ。
病院見学は行けば行くほどいいと思っている。
そんなに興味のない病院であっても、研修医と話して何かしら得るものはあるし、病院を見る目が養われる。
コロナの関係で、見学なしで病院を受けるような人もいるみたいだが、はっきりいって全く理解出来ない。採用側からしてもそんな人は不安材料でしかないと思う。
逆にオンライン説明会なんかは、上の先生の監視のもとで研修医は上辺の都合の良いことしか言わないので、大して得られるものはない。私たちの代はコロナでレジナビは無くなったが、正直来年度からレジナビが復活したとしてもわざわざ行く必要はないと思う。
ただある程度忙しさに関して客観的な指標から推察することも可能であり、いくつか紹介したい。
忙しさを見極める客観的指標
・研修医の患者受け持ち数
病院見学をした体感だと都内では平均で10症例前後だと感じた。ハイポ病院で7-8症例、ハイパー病院だと15-症例くらいが目安だろうか。ハイパーで有名な虎ノ門病院は20症例を超えるとも聞いた。
が、同一の病院でも診療科によって大きく差があり、各病院で必ず診療科を統一させて症例数を比較することが重要だ。
・当直(日直)
当直というのは簡単に言ってしまえば、定時後の夜間に病院に滞在(日直なら土日祝の日中に滞在)し、病棟や救急外来に来た患者の対応をすることだ。
当直の回数は病院によって様々で市中病院であれば月4回のところが多い。病院によっては研修医同士で交渉して、回数を減らしたり、逆に増やしたりもできる。当直のメリットはやはりお金だろう。1回の当直で約2万円前後もらえるため、月4回入ればそれだけで8万円である。
当直の忙しさはやはり病院による。
まず2次救急か3次救急かで大きく変わる。3次救急は致死性の疾患、交通事故などでかなり危険な状態である患者も受け入れ可能な救急体制であり、搬送されてくる患者の数も多く、研修医の負担も大きい(もちろん勉強にはなると思うが)。3次救急の病院もいくつか見学したが、やはり当直は寝れないことがほとんどだそうだ。ただ大抵の場合。当直明けは午前中のみなど短縮してもらえる。
一方で2次救急はいわゆるヤバい状態の患者は受け入れず、患者の数も比較的少ない。ゆえに病院次第では寝ることは十分可能であるが、当直明けは普通に勤務したりもする。
救急車や救急外来に来る患者の数はレジナビなどを見れば乗っているので、チェックしてみるとよりわかる。
3次救急が必ずハイパーかと言われたら決してそうではなく、3次でも日中は仕事少ない(救外だけ忙しい)病院も存在するし、その逆も然りだ。あくまで当直の大変さに限った話だ。
・土日出勤
ある程度の忙しさの病院のほとんどは土日いずれか、または両日出勤する(診療科にもよるが)。ただどの程度の仕事が要求されるかは病院次第であり、出勤といっても午前中にちょろっとカルテを書くだけというケースもあるため、実際の負担は病院次第である。
土日出勤のデメリットはやはり旅行のしにくさだと思う。
・当番医制 or 担当医制
いわゆるオンコール(院外でつながるピッチを持たされる)かどうか問題だ
当番制というのは病棟の患者が急変などした場合、病院にいる当番の医師が対応する制度だ。多くの病院は当番制だと思う。
一方で担当医制はその患者を受け持つ医師(研修医)がまず対応する必要があり、飲み会中などでピッチがかかってきて、場合によっては飲み会を切り上げて病院へ向かわないといけないこともある。また担当医制の病院の中には外出範囲に制限があったり、病院寮に強制的に住まわされるなど、行動範囲に制限を設けるところもあるようだ。
当然担当医制の病院はハイパーが多い。
ただ実際は担当医制の病院に行ったら飲み会は諦めろというわけではなく、ピッチがかかってきてもその場の電話対応のみで済ませられる場合もあり、実際に病院に行くケースというのはもう少し限られるようだ(というか受け持ちの患者の状態次第らしい)。
また病院の中でも診療科によって異なる場合もあり、クチコミだけで判断するのではなく、実際にどんな感じか見学などで研修医に確認した方が良い。
全ての病院を隈なくチェックするのは中々大変である。
そこで簡便な指標となるのがその病院の人気度だ。マッチング制度が始まってから早10年以上経過し、ある程度人気病院というものが確立されている。やはり人気病院にはそれなりの理由があるし、ある程度人気の病院を選んでおけばそれなりの研修生活は保証されると考えて良いだろう。
私は都内というのは決めていたが、1から病院を探すのは面倒であったため、まず病院の志望者から見た人気ランキングをチェックし、そこに掲載された人気病院でスクリーニングをかけることにした。
ただ一つ注意なのが、よく第一志望者数のランキングを人気ランキングとして掲載しているサイトがあるが、第一志望者数(その病院に最も就職したいと考える人数)=人気度は早計であると感じる。
第一志望者数と併せて、マッチング評議会のページに掲載されるプログラム希望順位登録者数(その病院に就職しても良いと考える人数)もチェックするべきである。結局実際の倍率をより反映するのは後者の方だしね。
また倍率は低くても受験者層が優秀な場合があり、倍率以上に難関な病院も存在する。例えば虎ノ門や聖路加は倍率こそもっと高い病院は存在するが、そもそもかなり高い意識を持っていなければ受験しないような病院であり、自ずから受験者のレベルは高くなり、熾烈な戦いとなる。
一方で定員の少ない都内のハイポ病院は倍率はかなり高いが、受験者層はハイポ志向が多く、受験者のレベルが高いとはお世辞にも言えないだろう。
大学受験でも離散より底辺私立の倍率の方がずっと高いが、それと同じである。
いかがだろうか。
ここまで色々書いたが、自分の条件を完璧に満たす病院というのは滅多に存在しない。
やはり自分が病院選びにおいて絶対に譲れない部分を決めて、それを軸として探すのがセオリーだろう。
私が思う研修マッチング成功の最大の秘訣は、志望度が同じくらいの病院をより多く集めて受験することに他ならない。
大学受験までとは違い、受験する病院の数に限りはない。
「数打ちゃ当たる」
滑り止めでなく、行きたいと思える病院を多く受ければ受けるほど成功に近づく。
そしてそのためには先輩や同級生、クチコミを鵜呑みにするのではなく、とにかく病院見学に行く。自分の足を使って得た情報は100万のクチコミに勝る。
病院見学することで待遇や研修内容だけでなく、病院の雰囲気、周辺環境、そこで働く事務員、研修医、上級医などの熱量といった言葉にはならないその病院独特の「空気感」を味わうことが出来る。
「少しでも迷ったら病院見学すべし」
以上、研修病院選びの参考になれば幸いである。
ばーい
K